目次
導入:デザイナーが著作権について知っておくべき理由
デザイナーとして活動する上で、著作権に関する知識は不可欠です。
なぜなら、著作権についての理解が浅いと、どの画像やイラストを使用して良いのか判断できず、知らないうちに著作権侵害を犯してしまう可能性があるからです。
たとえば、「有料素材サイトの素材を使用していれば大丈夫!」と思っている方もいるかもしれませんが、それは危険です。
素材サイトの中には、プロジェクトによって使える素材と使えない素材があります。
エディトリアル限定素材とは?
特に注意すべきなのが、エディトリアル限定と書かれている素材です。
これは、商業利用ではなく、報道・教育・解説といった非商業的な目的でのみ使用が許可されている素材のことです。
※エディトリアル(Editorial)とは、主に新聞、雑誌、ニュース記事、ブログ記事など、報道や解説的なコンテンツを指します。
素材サイトの選び方
また、amanaなどのハイクオリティな素材を提供するサイトは、素材の審査が厳しいため、使う側は安心です。
しかし、海外の素材サイトや無料素材サイトでは、審査が甘く、商標権侵害や著作権侵害をしている素材がアップロードされているケースも見受けられます。
特に海外の場合は日本と著作権が違うこともあります。
日本で使用する場合は、しっかり日本の著作権を意識して素材を使う方が良いでしょう。
知らないうちに著作権侵害をして、損害賠償請求を受ける前に、しっかりと知識を身につけておきましょう。
素材サイトについては別記事にまとめているので、参考にしてみてください。
参考記事:おすすめの有料素材サイト比較まとめ
実例紹介:車関係の販促物での著作権問題
私が過去に担当した車のエアコンフィルターの販促デザインでの話です。
当時、コロナが流行しており、車とマスクを使ってエアコンフィルターの機能を視覚的に表現しようと考えました。
問題の発生
トップボードに使用する車の画像を素材サイトで探し、その車にマスクを合成するデザインを作成しました。
当初は国産メーカーの車を使用し、メーカーが特定できないように車の前に大きなマスクをつけました。
しかし、取引先の広告代理店のチェック時に、「メーカーの車を使用するのは問題があるのではないか」という指摘を受け、最終的に**架空の車(3DCGで作成された車)**を使用することになりました。
車のような商標が関連する画像を使用する場合、安全性を考慮して素材サイトの3DCGで作成されたノーブランド素材を使用することをおすすめします。
メーカーの車を使うのは、なぜ問題になるのか?
一見すると当たり前のように思えるかもしれませんが、これは際どい問題です。
実際、メーカーの車が写っている広告は多数存在します。
OKな場合
- 背景に偶然映り込んでいる程度であれば問題ありません。
- 車の存在が意図的にアピールされていない場合。
NGな場合
- 車が意識的にアピールされている場合。
- 車の価値に便乗していると判断される場合。
このような場合、不正競争防止法や一般不法行為で差し止め請求されるリスクがあります。
著作権の基本概念とデザイナーに影響するポイント
1. 著作権の基本概念
著作権とは何か
著作権とは、創作された作品(絵画、音楽、デザイン、文章など)に対して、その作者に与えられる排他的な権利です。デザイナーが作成した作品は、作成した瞬間から自動的に著作権で保護されます。
しかし、裁判でその著作権が認められるかどうかは別問題です。
よく「自分が作ったものには著作権があるから、コピーされたら訴えれば良い」と思われがちですが、応用美術でないことや依拠性の証明など、著作権を証明するのは非常に難しい場合があります。
体験談:私自身、過去に自分のデザインをコピーした方と裁判をしたことがあります。その際、自分の著作物の著作権を証明することがどれほど大変かを痛感しました。この経験については、別途noteにまとめる予定ですので、興味があればnoteもご覧ください。(筆者のnoteはこちら)
著作権が保護する範囲
- 保護されるもの:デザインそのものやその表現形態。
- 保護されないもの:アイデア自体。
著作権の保護期間
- 著作者の生涯と死後70年まで保護されます。
- この期間が過ぎると、作品はパブリックドメインとなり、誰でも自由に使用できます。
参考情報:パブリックドメインの作品を集めた素材サイトも存在します。(パブリックドメインの素材サイト)
また、蒸気船ウィリーのミッキーマウスも最近著作権が切れたことで話題になりました。(ミッキーの著作権切れニュースはこちら)
2. デザイナーに影響する著作権の重要ポイント
著作権の自動発生
デザインは登録しなくても、制作した瞬間に自動的に著作権が発生します。
ただし、作品の著作権を証明するために記録や証拠を残しておくことが重要です。電子証明サービスやデジタルタイムスタンプを利用することも有効です。
著作権の譲渡と使用許諾
デザイナーがクライアントにデザインを提供する際、著作権をどの程度譲渡するか、または使用許諾を与えるかがポイントです。
- 著作権を完全に譲渡すると、そのデザインに対して制御権を失います。
- 契約書に明確な権利範囲を定めることが重要です。
- 商業利用の範囲
- 期間
- 地域
- 再配布の可否 など
しかし、現実問題として、多くのデザイナーはデザインを提供する際に著作権を譲渡していることが多いです。
私の周りのデザイナーや過去に働いていたデザイン事務所、現在契約している広告代理店との契約内容を見ても日本では、著作権を譲渡することが一般的です。
他人の著作物の利用について
他のデザイナーやアーティストの著作物を使用する場合は、必ず権利者の許可を得る必要があります。
- インスピレーションを得たデザインでも、過度に似ている場合は著作権侵害のリスクがあります。
- これは「二次的著作物」として特に問題になります。
現在はSNSで炎上することも多く、問題になるケースが増えていますが、裁判で損害賠償沙汰になることは少ないでしょう。
これは、日本において著作権侵害を専門に審査する機関がまだ存在しないことが一因です。
裁判で著作権侵害を証明するのは難しく、仮に証明できたとしても、損害賠償として認められる額は限定的です。
例えば、私が商品や商品ページデザインの著作権侵害を訴えた裁判では、得られる損害賠償額は約30万円に留まるとの見解がありました。被害額はその10倍以上であることから、裁判を通じた解決が金銭的なメリットをもたらすとは言い難いのです。
結果として、裁判を行っても双方が消耗するだけになることがわかっているので、裁判になる可能性も少ないのです。
基本的に日本はコピー天国です。ただ
- 完璧にコピーしている
- 商標を無断で利用している
などの明確な証拠がある場合、損害賠償請求の対象になったり、民事訴訟だけでなく、刑事告訴されるリスクもあります。
注意点:刑事告訴は難易度が高く、警察署の方によると民事訴訟の数倍の難易度だそうです。よほど悪質で社会的影響が大きい場合に限られるでしょう。
著作権侵害とそのリスク
- 自分のデザインが無断で使用された場合や、他人のデザインを誤って利用してしまった場合、著作権侵害に該当する可能性があります。
- 侵害が発生した場合、訴訟リスクや金銭的賠償を求められることもあります。
- デザイナーとして、盗用リスクや適切な権利の取得を常に意識することが大切です。
オンライン環境での著作権保護
インターネット上で公開するデザインは、簡単にコピーされるリスクがあります。そのため、以下の対策が必要です。
- 著作権表示を行う例:
© [著作者名] [年号]. All rights reserved.
これを画像の隅に小さく表示することで、第三者に著作権が存在することを明示できます。 - ウォーターマークを入れる
- 自分のロゴや名前、ウェブサイトのURLを薄く画像に重ねる。
- 透明度を下げて、デザインの邪魔にならないように配置。
- 配置場所:画像の中央、四隅、または斜めに全体に入れる。
- PhotoshopやIllustratorなどのデザインツールでウォーターマークを挿入する。
- 透明度を20〜30%に設定。
- メタデータに著作権情報を含める
- メタデータとは、画像やデザインファイルに埋め込まれる情報。
- EXIFデータやIPTCメタデータを活用。
- Adobe PhotoshopやLightroomで簡単に編集可能。
- 「ファイル」メニュー → 「ファイル情報」をクリック。
- タイトル、著作権表示、作成者情報を入力。
Illustratorでウォーターマークを入れる手順
まずはウォーターマークを入れたい画像を準備します。今回は私が過去にデザインした作品を編集していきます。
1.画面向かって左のツールパネルより直線ツールを選択します。
2.直線ツールを使って下記のように画像全体に透明度30%の×マークを作成します。
3.テキストツールを使って透明度30%のロゴマークを作成します。
4.長方形ツールを使って正方形の線オブジェクトを作成します。
5.正方形をガイドに変更し、ハサミツールで×と重なる角をカットします。
6.完成したものを書き出して画像に変更して完成です。
作成手順がよくわからない方は、YouTubeに全ての手順を掲載した動画がありますので、ぜひ参考にしてください。
時間の都合上、動画には解説がなく、手順のみをお見せしています。そのため、わからない部分がある場合は、見よう見まねで作成していただけると助かります。
また、分かりやすさを重視して、極力ショートカットキーは使用しておりません。
著作権と他の知的財産権の違い
商標権
- 商標は、ロゴやブランド名が他者によって勝手に使用されないようにするための権利。
- デザイナーがロゴを制作する際、クライアントに商標登録を勧めることが一般的。
私自身も商標権を持っていますが、コピーする人は商標などを削除してコピーすることが多いです。そのため、商標の価値が薄れてしまうこともあります。さらに、商標権を取得するには費用と手間がかかります。
しかし、商標を取らないと完全にコピーされたり、ブランドを盗まれる可能性があるため、大切なブランドの商標は取得しておきましょう。
参考情報:私が商標を取得した際の費用は約10万円程度で、優秀な事務所を利用しました。グローバルな商品やAmazonで商品を販売している方には特におすすめです。中地 章太(ナカジ ショウタ)からの紹介と伝えて貰えれば、1万円引きクーポンが貰えます。みなとみらい特許事務所→https://www.mm-patent.com/
意匠権
- 意匠権は、プロダクトデザインなどの外観に関する権利。
- 独自のプロダクトデザインを保護する際に利用されます。
著作権との違い
- 著作権:作品全体の表現を保護。
- 商標・意匠権:デザインの特定の側面を保護。
ポイント:どの知的財産権が最適かを理解し、それぞれに応じた保護方法を選ぶことが重要です。
現実問題:著作権だけでは自分のデザインを守るのは難しいです。モラルがない人が得をする世の中になりつつあります。自分のデザインを守る知識をしっかりと持ちましょう。
デザイナーが実践すべき著作権対策
1. 契約書を作成する
- クライアントとの契約書に、著作権の譲渡や使用許諾に関する事項を明確に記載。
- 権利関係をしっかりと管理。
2. 自己作品の記録を取る
- デザインの制作過程を記録する。
- 作品をタイムスタンプ付きで保存する。
タイムスタンプ付きで保存する方法
- タイムスタンプ発行サービスを利用する
- Bitproof:ブロックチェーン技術を利用して、作品の存在証明を行うサービス。
- TimeStamp It!:デジタルコンテンツにタイムスタンプをつけるオンラインサービス。
- Adobe Acrobat:PDFファイルをタイムスタンプ付きで保存。
- ブロックチェーン技術を活用する
- Ascribe:デジタル作品をブロックチェーン上に登録し、所有権や使用権を証明。
- OpenTimestamps:無料でブロックチェーンにタイムスタンプを登録。
- メールやクラウドサービスを活用する
- 自分宛にメールで送信:送信日時が証拠となる。
- クラウドサービス:GoogleドライブやDropboxにアップロードし、アップロード日時を記録。
- 郵便を利用する(物理的な方法)
- 作品を自分宛に郵送し、消印の日付を証拠として保管。
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3. オンラインでの盗用対策
- ウォーターマークや著作権表示を行い、無断使用を防止。
日本と海外の著作権法の違い(簡単に)
1. 著作権の自動発生
- 日本:作品を創作した時点で自動的に著作権が発生。登録の必要なし。
- 海外(アメリカ、ヨーロッパ):同様に自動発生。アメリカでは登録することで訴訟時に有利。
2. 著作権の保護期間
- 日本:著作者の死後70年間(2018年に50年から延長)。
- アメリカ:著作者の死後70年間。法人著作の場合は公開から95年、または創作から120年間。
- ヨーロッパ:著作者の死後70年間。
3. 著作権の登録
- 日本:登録は必要ないが、証明のために任意で登録可能。
- アメリカ:登録することで侵害時に法的に有利。訴訟を起こすためには登録が必要。
- ヨーロッパ:自動発生が基本で、登録は一般的ではない。
4. フェアユースと引用
- 日本:引用は他の部分が主で、引用部分が従。教育目的や報道などに限られる。
- アメリカ:**フェアユース(Fair Use)**の概念があり、批評、ニュース報道、教育、研究などで一定範囲の無断使用が可能。
- ヨーロッパ:フェアユースの概念はなく、EU著作権指令に基づき、研究や報道、教育のために一定範囲で使用許可。
5. 著作権侵害の罰則
- 日本:民事訴訟での損害賠償請求や刑事告訴による罰則。
- アメリカ:商業的な侵害の場合、高額な損害賠償。フェアユースの判断は広範囲。
- ヨーロッパ:民事および刑事の罰則。商業的な侵害には厳しい対応。
まとめ
デザイナーにとって、著作権は自分の作品を守るための重要なツールです。
著作権を理解し、適切な対策を講じることで、自身のクリエイティブな活動を保護し、クライアントとの関係も円滑に進めることができます。
モラルが欠如した人々が得をする世の中ではありますが、自分のデザインを守る知識と意識を持つことで、リスクを最小限に抑えることができます。
おすすめのリソースと書籍
- 素材サイトの選び方と注意点の記事はこちら(おすすめの有料素材サイト比較まとめ)
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デザイナー向けのおすすめの書籍
最後に、この記事が皆さんのデザイン活動の一助となれば幸いです。
著作権について正しい知識を持ち、安心してクリエイティブな活動を続けていきましょう。